第60巻 第3号

経済地理学年報 Vol.60 No.3

■研究ノート

広域合併自治体の山村におけるバス交通サービス需給の特徴― 広島県三次市上作木地区の事例 ―
 …… 田中 健作 1(171)

九州半導体産業における多様なネットワークの形成過程と制度的な支援体制
 …… 與倉 豊 17(187)

■フォーラム

台東・墨田産業集積の伝統と革新 ― 第 60 回大会エクスカーション総括 ―
 …… 小田宏信・遠藤貴美子・山本俊一郎・山本匡毅 34(204)

■書評

須山 聡編著(2014):『奄美大島の地域性 ― 大学生が見た島/シマの素顔 ― 』
 …… 荒木 一視 45(215)

中藤康俊(2012):『中国 岐路に立つ経済大国 ― 四半世紀の中国を見て ― 』
 …… 上野 和彦 48(218)

遠藤 元(2010):『新興国の流通革命 ― タイのモザイク状消費市場と多様化する流通 ― 』
  …… 兼子 純 52(222)

藤田佳久・阿部和俊編(2014):『日本の経済地理学 50 年』
 …… 中澤 高志 55(225)

■学会記事

 …… 59(229)

 

要旨

広域合併自治体の山村におけるバス交通サービス需給の特徴― 広島県三次市上作木地区の事例 ―

 …… 田中 健作

 三次市では,規制緩和と市町村合併を経て,バス交通サービスを広域的に維持するために,複数の交通サービスが組み合わせられてきた.市当局は,財政負担を抑制してバス交通サービス圏を維持するために,再編された市域の一体化を考慮し,バス交通サービスを規格化して平準化するとともに,高齢者の生活を念頭に置いて利用者層を絞り込む公共交通政策を展開してきた.それによりバス交通サービスは平準化されてきたが,路線競合の回避や運行回数の少なさが起因し,その広域的利活用は考慮されにくいままにある.このようにして供給されるバス交通は,住民の生活に資するものとはいえ,広域化する住民の交通需要と十分に整合しないままにある.今後は,地域整備と交通整備の連携や複数のバス交通の結合などを通じて様々な住民のニーズに応え,バス交通の機能と持続性を高めていくことが求められる.

キーワード 市町村合併,公共交通政策,交通需要,山村,三次市


九州半導体産業における多様なネットワークの形成過程と制度的な支援体制

 …… 與倉 豊

 九州半導体産業は,経済産業省の産業クラスター計画や文部科学省の知的クラスター創生事業など科学技術振興施策の元で,システムLSIや三次元実装など競争優位を有する技術を順次導入し,大手半導体メーカーの再編や東アジア諸国の技術的キャッチアップなど時代ごとの環境変化に適応してきた.本稿では,九州における半導体産業の高度化を振興する事例として,九州経済調査協会が事業実施の中核主体となる国際会議の開催事業と,ビジネスマッチング事業を取り上げ,半導体関連企業間の多様なネットワークの形成過程について検討した.分析の結果,2001年の初開催以降,国際会議が多様な国から参加者を集め,国際取引を可能とさせる商業の場として機能していること,また既存の人的ネットワークの強化に寄与していることを明らかにした.そして国際会議で構築された人的ネットワークの活用を目的として,2008年より開始されたビジネスマッチング事業では,継続的な情報交換によって相互に他企業を認知するなかで信頼関係が醸成され,九州内外の企業間で新規取引関係が構築されていることを示した.そのような多様な企業間のネットワーク形成において,半導体技術に関して卓越した知識を有するコーディネーターが重要な役割を果たしていることが示唆された.

キーワード 半導体産業,国際会議,テンポラリークラスター,社会ネットワーク分析,九州


台東・墨田産業集積の伝統と革新 ― 第 60 回大会エクスカーション総括 ―
 …… 小田宏信・遠藤貴美子・山本俊一郎・山本匡毅 34(204)

 1960年代,70年代を通じてわが国の経済地理学の重要な研究フィールドであった東京城東地域の‘昔と今’を探る大会エクスカーションを2013年6月3日に表記のメンバーで企画・開催した.台東区・墨田区では,人口の都心回帰とジェントリフィケーションが進行するなか,従来からの地域産業集積がいかなる変容を経験しているのか,また,いかなる地域産業政策が講じられてきたのか,といったことがエクスカーションの開催趣旨であった.本稿は,エクスカーションの実施前に数次にわたって行った事前調査と,開催当日の現地討議によって得た内容を総括するものである.

キーワード 台東区,墨田区,地場産業,地域産業振興,産業のまちづくり

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