第58巻 第4号

経済地理学年報 Vol.58 No.4

特集 地域問題と地域振興の課題と方法

■ 大会報告論文

地域問題と地域振興をめぐる研究課題 -地域政治経済学的アプローチの歩みを通して-
 …… 中村 剛治郎 1(275)

地域環境・地域資源の活用を重視する地域開発政策の展開 -北海道石狩湾新港地域を事例として-
 …… 菊地 達夫 25(299)

地域内経済循環の構築と地域産業振興 -北海道・十勝地域を事例として
 …… 大貝 健二 35(309)

北海道農業の構造問題と地域的対応
 …… 東山 寛 50(324)

■ 論説

潜在的な観光客の仮想行動に着目した歴史的景観の保全による観光需要の地理的変動 -京都市における事例分析-
 …… 村中 亮夫・中谷 友樹 62(336)

■ フォーラム

2012年度関西支部・西南支部合同6月例会(共催:地域地理科学会)報告
シンポジウム 広域行政を展望する
 …… 高山 正樹 83(357)

■ 大会記事

[大会シンポジウム]

地域問題と地域振興の課題と方法
 …… 大会実行委員会 93(367)

[ラウンドテーブル]

現代日本の資源問題を考える
 …… 中藤康俊・松原 宏 99(373)

[フロンティアセッション]

 …… 門川和男・中村大輔・駒木伸比古・森嶋俊行・中村 努 102(376)

[大会巡検報告]

北海道・日高地方における世界屈指のサラブレッド産地の取組み
 …… 古林英一 114(388)

■ 学会記事

 …… 116(390)

要旨

地域問題と地域振興をめぐる研究課題 ― 地域政治経済学的アプローチの歩みを通して ―

 …… 中村 剛治郎

 現代においては,既存の経済活動を維持することが難しくなり,経済発展を牽引する革新的な経済活動を創出すること,そのための制度的な環境を準備することが重要になっている.結果としての経済地理を描くだけでなく,経済発展のための制度的環境を創り出して,経済と地理の新しい結びつきを生みだすことが,経済地理研究の現代的課題になっている.筆者は,経済と地理の間に,経済発展のための制度的環境としての地域(地域社会・文化・政治・環境・経済)という概念を入れて,地域における諸アクターの関係性の蓄積が作りだす地域の制度や制度的構造が経済発展にどのような影響を与えるか,それらを部分的に変えようとする制度的設計,地域的制度的仕掛けが新たな経済発展の経路を拓けるかを検討する方法が必要と考える.筆者は地域政治経済学的アプローチを,主体重視の発展論的で動態的な比較地域制度アプローチとして展開しつつある.本稿は,この視点から,筆者のこれまでの事例研究のうちのいくつかを整理し直して紹介し,現代の経済地理あるいは地域経済の抱える構造的問題と政策研究の課題を明らかにしようとするものである.はじめに,筆者の動態的比較地域制度アプローチに言及した上で,内発的発展という地域の論理をもちえずに外発的成長の国民的論理に翻弄された山間地域,地域の論理をもちながら国民的論理に組み込まれた大都市地域,国民的制度構造のもとで独自の内発的発展をしてきた地方都市,東京一極集中の問題性,外発的成長から内発的知識経済に変わった米国の都市,辺境の分工場経済から内発的知識経済に発展した北欧の都市を取り上げ,最後に震災復興の地域産業政策に言及する.

キーワード 動態的比較地域制度アプローチ,国民的成長経路,内発的発展,制度拡張,経路修正


地域環境・地域資源の活用を重視する地域開発政策の展開 ― 北海道石狩湾新港地域を事例として ―

 …… 菊地 達夫

 北海道は,明治以降,中央政府の主導によって,地域開拓政策,地域開発政策を展開してきた.戦前の地域開拓政策では,食料生産,地下資源開発を中心に産業立地を形成してきた.他方,製造業を中心とした工業立地では,道外大規模資本による鉄鋼業や製紙業の立地,道内小規模資本による食品加工業,木材加工業の立地がみられた,戦後では,太平洋ベルト地帯が形成されると,工業立地の分散のため,大規模な地域開発政策が計画された.北海道の場合,苫小牧東部地域開発計画が展開した.しかしながら,苫小牧東部地域開発計画をはじめとする道内工業団地は,思うような企業誘致ができなかったところが多い.

 そうした中,同時期に展開した石狩湾新港地域開発計画では,地域環境や地域資源の活用を重視した企業誘致を行い,一定の企業立地に達している.工業立地の場合,その中心は食品加工業や木材加工業であった.それに加え,近年,リサイクル系企業や環境・エネルギー系企業の立地が,急速にすすみつつある.また,東日本大震災の影響が,皮肉にも,それら企業立地の追い風になっている.

 第7期北海道総合開発計画,札幌臨海小樽・石狩地域の基本計画の内容では,誘致する企業立地の推進として,食品加工業,リサイクル系企業,環境・エネルギー系企業などの業種が示されている.いずれも,地域環境や地域資源の活用を重視する業種内容である.そのため,石狩湾新港地域は,それら企業立地の先駆的な役割を果たしている.

キーワード 北海道総合開発計画,石狩湾新港地域,地域開発政策,地域環境,地域資源


地域内経済循環の構築と地域産業振興 ― 北海道・十勝地域を事例として ―

 …… 大貝 健二

 経済のグローバル化や,少子高齢化の進行に伴い,国内地域経済の疲弊が進んでいる.そのなかで農商工連携,6次産業化など地域資源を活用した地域経済の活性化を目指す取り組みが展開されてきている.本稿で取り上げる北海道・十勝地域は,国内最大の小麦生産地であるが,その大部分は国内消費地へと移出されていることから,地域内で生産,加工,消費の連関は希薄であった.しかし,近年は,農業生産者,中小企業者などの地域の経済主体により,十勝で生産された小麦を地域内で加工し消費する,地域内経済循環を構築する取り組みが広まりつつある.同時に,十勝地域では,「農」や「食」をキーワードに,地域資源を活用した地域産業振興策が積極的に展開されている.そこで,本稿では,地域の経済主体による経済循環を構築する取り組みを明らかにするとともに,地方自治体による地域産業振興施策の展開にも注目している.

キーワード 農商工連携,北海道・十勝地域,小麦,地域資源,地域産業振興


北海道農業の構造問題と地域的対応

 …… 東山 寛

 北海道の農業を全体として見ると,水田作,畑作,酪農という主要な経営形態が鮮明な地域分化を遂げ,それぞれが中核地帯を形成している.他方,これ以外の農業地域を便宜的に「非中核地帯」と括っておけば,その典型に園芸の産地形成に成功した地域が位置づく.本論文は畑作地帯,酪農地帯,園芸地帯を対象として,各地域に特有の農業構造問題の所在と,それへの対処のあり様に焦点をあてている.中心的な課題は農家戸数の減少に伴う構造変化への対応であり,畑作地帯における複数戸法人の組織化,酪農地帯における地域レベルの新規参入支援体制の構築,園芸地帯における土地利用型生産者組織の形成と転作対応の改善に,構造変化に対応した「前望的」な動きを見出した.

キーワード 農業構造問題,複数戸法人,新規参入,土地利用改善


潜在的な観光客の仮想行動に着目した歴史的景観の保全による観光需要の地理的変動 ― 京都市における事例分析 ―

 …… 村中 亮夫・中谷 友樹

 本稿では,京都市への潜在的な観光客の仮想行動に着目し,京都市における歴史的建築物の改修・保全による観光需要の地理的変動を検討した.そこでは,京都市内における歴史的建築物が改修・保全される仮想の景観政策を想定し,この政策が実行される前後の京都市への訪問頻度の地域差から,景観政策の地域的な波及効果を検討した.分析データとしては,20歳以上のYahoo!リサーチ登録モニターに対するWeb 調査により得られた仮想行動に関するデータを利用した.本研究では,京都市への訪問頻度を従属変数,居住地方や年齢,性別,世帯人数,世帯年収を独立変数とするランダム切片ゼロ膨張ポアソン回帰モデルにより,訪問頻度のモデルを推定した.分析の結果,京都市への訪問頻度は京都市へのアクセスの良い近畿地方で突出して高く,京都市からの距離に応じて逓減している傾向が見られた.また,歴史的建築物の改修・保全後には京都市への観光客数は増加し,その数は京都市へのアクセスが良く人口が集中している京阪神大都市圏を含む近畿地方で最も大きい値を示した.単位人口当たりの訪問頻度の増加量に着目してみると,京都市から遠距離に位置する九州地方や北海道・東北地方で高い値が示された.

キーワード 歴史的景観,潜在的な観光客,仮想行動,Web 調査,ランダム切片ゼロ膨張ポアソン回帰モデル


2012年度関西支部・西南支部合同6月例会(共催:地域地理科学会)報告
シンポジウム 広域行政を展望する

 …… 関西支部・西南支部合同例会実行委員会

 本シンポジウムは,関西支部代表幹事の高山正樹(大阪大学)と西南支部代表幹事の荒木一視(山口大学)により企画された合同例会に,地域地理科学会が共催して開催された.この経緯と,シンポジウムの趣旨を高山正樹が説明したのち,以下に示されるように,森川洋(広島大学名誉教授)の基調講演,青木勝一(兵庫県),根岸裕孝(宮崎大学),中村良平(岡山大学)の4 報告が約2 時間20分間行われた.その後,10分ほどの休憩をはさんで,討論が約1 時間あまり行われた.参加者は70人ほどであった.

キーワード 広域行政,市町村合併,関西広域連合,定住自立圏,持続可能な地域経済

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