第55巻 第2号

経済地理学年報 Vol.55 No.2 (2009.6)

■ 論説

山梨県における経営コンサルティングサービスの供給者特性
 -「中小企業向け公的経営指導・支援機関」と小規模ビジネスサービス業の連携に着目して-
 ・・・ 新名阿津子 1(99)

■ 研究ノート

大規模ショッピングセンターが周辺居住者に及ぼす外部効果の地理学的分析
 -浜松市郊外の市野SCの場合-
 ・・・ 湯川尚之 23(121)

地産地消に関連する諸活動と社会関係資本
 -千葉県安房地域を事例として-
 ・・・ 横山繁樹・櫻井清 39(137)

地域医療情報ネットワークにおける情報技術の構築と受容過程
 ・・・ 中村 努  52(150)

■ フォーラム

「合併シンポジウム」
 -合併で誕生した広域自治体の実情と問題点・課題-
 ・・・ 西原 純 70(168)

■ 書評

安積紀雄:『営業倉庫の立地分析』『続営業倉庫の立地分析』
 ・・・ 阿部和俊 78(176)

藤井正・光多長温・小野達也・家中茂編著:『地域政策入門-未来に向けた地域づくり-』
 ・・・ 川端基夫 80(178)

■ 学会記事

 ・・・ 83(181)

要旨

山梨県における経営コンサルティングサービスの供給者特性
 -「中小企業向け公的経営指導・支援機関」と小規模ビジネスサービス業の連携に着目して-
 ・・・ 新名阿津子

 本稿は山梨県における経営コンサルティングサービスの供給者特性を,「中小企業向け公的経営指導・支援機関」と小規模ビジネスサービス業の連携から明らかにした.当該サービスは中小企業政策によって制度化され,無料で供給されてきた背景がある.その制度的実践を担う商工会議所や産業支援機構などの「公的経営指導’支援機関」は,交通の利便性が確保された地点に立地し,地域経済に精通した人材が山梨県内に立地する中小企業を対象に,経営相談から問題解決まで一連のサービスを供給しており,主導的役割を果たしてきた.また,コストの面からみても,サービス料金が発生しないため,「需要者の総負担コスト」が低い形態であった.一方,その補完的役割を担う小規模ピジネスサービス業は,経営コンサルタント業に特化した事業所だけでなく,税理士業や司法書士業などを営む事業所も含まれる,これらの事業所を経営する専門家は山梨県出身の中高年男性で構成され,自宅にオフィスを開設し,キャリア形成時に得た知識,資格,人脈を用いて,中小企業のみならず「公的経営指導1支援機関」や地方自治体ともサービス取引を行っていた.そして,この「公的経営指導・支援機関」を中心としたサービス需給関係は,地域経済との関係が深く,マクロスケールでの山梨県,ミクロスケールでの国中地域,郡内地域という経済圏を中心に形成され,維持されてきたものであり,地域内で完結していた.

キーワード: 経営コンサルティングサービス,公的経営指導・支援機関,小規模ビジネスサービス業,中小企業,山梨県


大規模ショッピングセンターが周辺居住者に及ぼす外部効果の地理学的分析
 -浜松市郊外の市野SCの場合-
 ・・・ 湯川尚之

 都市内部に立地する大規模な商業施設は,周辺居住者に対して何らかの影響すなわち外部効果を及ぼしている.本研究では,浜松市の郊外に立地した大規模ショッピングセンターを調査対象として選び,外部効果の空間的分布の特徴や強さを明らかにするため,店舗から約2kmの圏域内に居住する居住者に対してアンケート調査を実施した.回収した418通の回答を分析したところ,経済的な外部効果は正の方向に,また環境的な外部効果は負の方向に,それぞれ働いていることが明らかになった.交通渋滞と交通安全面では,特に負の外部効果が大きいが,居住者は買い物の利便性のようなショッピングセンターの正の外部効果を高く評価していた.大規模ショッピングセンターがもたらす外部効果の空間的特性は,影響の種類によって異なっている.すなわち経済的影響は,店舗から遠ざかるにつれて正の効果が減少していく距離減衰パターンを示す.騒音,交通渋滞,交通安全など環境面への影響は店舗からの距離が大きくなるほど負の効果が小さくなる距離滅衰パターンを示す.さらに景観の評価は店舗の直近でもっとも悪く,そこから遠ざかるにつれていったんは良くなるが,それ以降は変わらなくなる距離減衰パターンを示す.外部効果への評価の空間的分布を見ると,環境的影響において店舗へのアクセス道・主要道沿いで顕著な環境の悪化を示していた.

キーワード: 外部効果,距離減衰効果,郊外型大規模ショッピングセンター,アンケート調査


地産地消に関連する諸活動と社会関係資本
 -千葉県安房地域を事例として-
 ・・・ 横山繁樹・櫻井清

 本研究は,千葉県安房地域で実施した集落および農家調査に基づいて,地産地消に関連する様々な組織的活動の特徴を明らかにするとともに,社会関係資本と地産地消に関連する取り組みとの関係について考察することを目的とした.得られた知見は以下のとおりである.第1に,集落レペルの構造的杜会関係資本は,高付加価値化といった利益追求型の取り組みに加えて,環境保全型技術の採用,都市農村交流への取り組み,中山間地域等直接支払い制度の集落協定の締結といった,必ずしも個人の所得向上に直接つながらない組織的活動にも貢献している,第2に,世帯レベルの構造的社会関係資本に関しては,地域生活集団への参加程度の高い世帯ほど直売所への出荷も積極的であった.また,観光農園を行う経営者は,知人ネットワークが同一集落ないしは市町村内に限定される者が多かった.これらを合わせて鑑みると,地域の活動に活発に参加し近隣住民と密な関係をもつ世帯ほど,所得向上に直接つながる地産地消関連活動に対しても積極的であることがうかがわれる.第3に,世帯レベルの認知的社会関係資本は,地産地消に関連する活動とは特に関連がみられなかった.

キーワード: 地産地消,構造的社会関係資本,認知的社会関係資本,集落,地域生活集団


地域医療情報ネットワークにおける情報技術の構築と受容過程
 ・・・ 中村 努

 本稿では,情報技術が特定の地域に受容されていく過程を,地域医療情報ネットワークの先進的事例をもとに明らかにした.
 本稿で検討した地域医療情報ネットワークの事例において,情報技術が導入される以前,中核病院とその他の医療関係機関は,患者の獲得をめぐって競争関係にあった.一方,情報技術が導入される段階において,情報技術の導入を主導した地域中核病院は,地域医療情報ネットワークの維持運用費といった技術的, 経済的問題だけではなく,自らが果たそうとする機能や他の機関との関係をふまえて,当該ネットワークの空間スケールを設定した.その際,当該ネットワークヘの参加率を高めるためには,地域医師会や地域薬剤師会といった利害団体による協力が必要なことから,こうした団体の管轄範囲が考慮された.情報技術は競争から協調にいたる医療機関間の関係を支えるとともに,複数のアクターによる利害関係を地域医療情報ネットワークの空間スケールに反映させるように機能した.
 このようにして生まれた空間スケールは,医療機関問の関係およぴ情報技術との相互作用から生じることが明らかになった.情報技術は地理的距離とは無関係に受容されるわけではなく,情報技術と社会関係との相互作用を通じて県や二次医療圏の一部といった特定の地域における一部の医療関係機関に受容されていくのである.

キーワード: 地域医療情報ネットワーク,情報技術,千葉県山武地域,宮崎県

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