経済地理学会

The Japan Association of Economic Geographers

第73回大会2026年度【第2報】

◇◇経済地理学会総会および第73回大会のお知らせ【第2報】◇◇

2026年度経済地理学会総会および第73回大会について、下記のとおりお知らせします。

共通論題シンポジウム、フロンティアセッション、エクスカーションについては現在準備を進めています。これらを含むプログラム、会場アクセス、懇親会、エクスカーション申し込み等の詳細は、次号(第3報)にてご案内します。学会ウェブサイトの大会情報も逐次更新しますので、ご参照ください。

また、一般研究発表の報告申し込みの受け付けを11月10日より開始します(下の一般研究発表の項目をご参照下さい)。

◆日程:2026年5月23日(土)〜25日(月)

   5月23日(土) 評議会、共通論題シンポジウム、懇親会

   5月24日(日) フロンティアセッション、総会、一般研究発表、ラウンドテーブル

   5月25日(月) エクスカーション

◆会場:日本大学経済学部(〒101-8360 東京都千代田区神田三崎町1-3-2)

◆共通論題シンポジウム

テーマ:オルタナティブな経済を模索する経済地理学のアプローチ―コモン・グッド/ビヤン・コマンの創出・再生をめざして―

【趣旨】

第73回大会共通論題シンポジウムでは資本主義的な市場経済の枠にとどまらず実体的な経済活動を視野に入れてオルタナティブな経済を模索する経済地理学からのアプローチの可能性について議論したい。新自由主義的な発想のもとで市場を重視し個別化された主体に重きを置いてきたことは、世界各地において格差や排除さらに災害被害の増大など社会の歪を増幅させている。市場に問題があるために「市場の失敗」が生じれば政府の出番という二元論なアプローチにも限界が見えてきた。

経済のあり方自体が問われており、連帯経済(solidarity economy)や多様な経済(diverse economies)をはじめオルタナティブな経済を模索する潮流が生じている。より広範にはコモンズをめぐる社会のあり方に関心が高まってきている。英語圏におけるコモン・グッド(common good)や仏語圏におけるビヤン・コマン(bien common)は共通財/共通善の双方を意味している。共通財としての社会(的共通)資本の運営と共通善としての共通財やサービス供給をめぐる合意形成過程が肝要となる。そこで、近接性やローカリティに根差した観点と活動の大切さへの気づきがあり、経済地理学からの貢献が期待されている。

以上のような論点は、第72回大会共通論題シンポジウムのテーマである「人間らしい生活と経済地理学」とも共鳴する論点が提示される可能性を持とう。

経済のあり方や暮らしを問い直す挑戦的なテーマであり、シンポジウムでの刺激的な報告と活発な議論を期待したい。

【研究報告】

幡谷則子(上智大学)

テーマ(仮):ラテンアメリカの辺境地域における連帯経済の可能性―テリトリー(領域)再構築と生存戦略のはざまで

(ほかの報告者等、詳細は準備中)

◆ラウンドテーブル

ラウンドテーブル1 テーマ:地方創生施策のこれまでとこれから

オーガナイザー:松原 宏・三橋浩志(福井県立大学)、経済地理学会「政策研究会」世話人

【趣旨】

 2014年9月に、安倍内閣の下で「まち・ひと・しごと」創生本部が設けられ、さまざまな地方創生施策が打ち出されてきた。10年後の2024年には、内閣官房・内閣府により、「地方創生10年の取組と今後の推進方向」と題した総括がなされた。そこでは、「地域によっては人口増加等をしているところもあり、この中には地方創生の取組の成果と言えるものが一定数あると評価できる。しかしながら、国全体で見たときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要」があるとされた。

その後、石破内閣が誕生すると、2025年6月に「地方創生2.0基本構想」が閣議決定されたが、石破首相の退陣により、「地方創生2.0」は、暗礁に乗り上げてしまった。

 本ラウンドテーブルでは、めまぐるしく変わってきた地方創生施策を整理するとともに、地方創生交付金の効果や意義をデータに基づき検証するなど、これまでの政策の評価を行うとともに、今後の地方創生施策のあり方を議論することにしたい。

【報告】

 内閣官房「新しい地方経済・生活環境創生本部」 担当者を予定

 鎌倉夏来(東京大学) 

連絡先:三橋浩志(福井県立大学) mitsuhi(at)g.fpu.ac.jp 

※お手数ですが(at)を@に置き換えてください。

ラウンドテーブル2 テーマ:近年の都市開発における傾向と持続可能性

オーガナイザー:西山弘泰(駒澤大学)

(詳細準備中)

◆フロンティアセッション

セッション1

【報告者とテーマ】

古賀勇人(一橋大学):分権的エネルギー管理の経済地理学的検討:リスケーリングとコモニングを架橋して

【報告内容】

エネルギーシステムの分権化は、地域独占の中央集権的管理に対して、共的なエネルギー管理を可能にするとされる。日本でも、市民発電所や地域・自治体新電力という形で実践されており、地域経済循環や内発的発展の基礎になることで、オルタナティブな社会システムの実現に寄与すると位置づけられてきた。特に、脱炭素への政策的・経済的関心の高まりを受けて、共的なエネルギー管理の可能性が注目されている。一方で、このような理想が単線的に実現するわけではないことが、近年指摘されている。民主的であるという理想に反して、参加が限定的で、既存の不公正な社会関係が再生産される場合もある。ジェントリフィケーション等との親和性も指摘されている。また地域外の事業者への委託により地域内での価値創造が限定的になっている事例が多いことも指摘されている。このような理想と現実の乖離を踏まえて、「共的」とされるエネルギー管理の実態を問い直す必要がある。

このような分権化は、経済地理学的には「ローカル」へのリスケーリング(Rescaling)として捉えうる。すなわち、広域地域での統治を、ローカルスケールで再編するものと理解される。これは、国有化にも私有化にも抗うプロセスという点で、コモニング(Commoning)としても位置付けうる。ただし、実際の分権化は、電力自由化から電力システム改革に渡る開発主義的システムにおける市場的論理の導入ともとれる制度再編や各種の経済活動に埋め込まれている。分権化の実態には多様な論理が編み込まれている。

そのため、本報告では、エネルギーシステム分権化の社会経済的表出における多様な論理の共振やせめぎあいを分析することで、オルタナティブな経済と共的アプローチの接点を考察する。その際、報告者がこれまでに行ってきた市民発電所や地域・自治体新電力を対象とした実態分析を総合的に捉え直し、経済地理学における理論的・実態分析的示唆の導出を試みる。

セッション2

【報告者とテーマ】

畔蒜和希(明治大学・院):東京圏における保育労働の需給と社会的再生産―労働者の実践からみた保育サービスの空間―

【報告内容】

英語圏の経済・社会地理学では,世帯内外で行われる再生産労働への関心が高まっており,その際に「社会的再生産」が鍵概念として位置づけられている。ここでは,資本主義のもとで生産と再生産とが地続きであるという認識のもと,両者の回路を維持するための多様な労働や社会関係,そしてそれらが展開する空間スケールの多層性に焦点が当てられている。本研究はこのような議論を背景に,社会的再生産の重要な位置を占める保育サービス供給の存立を,労働者の実践と行為主体性の視点から明らかにしたものである。具体的には,2010年代以降の東京圏を考察対象に,乳幼児の保育サービスに従事する保育労働者の経歴や経験,仕事と生活にかかわる意思決定を読み解くことで,保育労働の需給と編成の過程を検討した。

本研究の成果は,主に保育労働者を対象としたインタビュー調査に基づいており,東京圏における都心と郊外の関係に着目した考察を展開している。東京圏では大規模な保育士養成校が郊外に多く分布しており,新卒保育士の労働需給は養成校と保育所との採用ネットワークに依拠する傾向にある。就職後の保育士はより良い職場環境を求めた転職を繰り返しており,その際には通勤利便性を重視した職場選択を積極的に展開している。さらに出産や育児による離職経験者の多くは,自身の育児を優先しつつ職場復帰を果たすために,自宅近隣でパートによる再就職を選択する傾向にあった。このようなパート職員の存在は正規職員の負担軽減にも結びついており,郊外の保育所では地元出身者を中心としたローカルスケールでの労働需給が維持されていた。

他方で,営利法人による保育所の増設が進む都心部の事例では,非大都市圏出身の若年保育士が多数を占めており,その背後には借り上げ社宅制度を活用した採用・定着戦略が存在する。また,都区部では保育施設では対応しきれない短時間・単発の託児を請け負うマッチング型ベビーシッターサービスも台頭しつつあり,これは利用者に柔軟な保育サービスを提供するだけでなく,保育労働者にとっても勤務時間や仕事量を自ら調整できる柔軟な働き方を可能にしていた。このような都心部の状況は,保育サービス需要の急増を背景に,制度による補完のもとで営利企業の参入が進んだ所産であり,同時に社会的再生産の不安定化を示唆するものである。

報告内では,これらの具体的な調査結果と考察を示すとともに,都市における家事・育児を中心とした再生産労働に関する研究の論点について,広く議論を展開したい。

◆一般研究発表の報告申し込み

 発表時間は、報告20 分、質疑応答15分を予定しています。希望者は下記の必要事項を添えて、2026年3月14日(金)までに申し込んでください。発表は本学会会員に限ります。連名での発表の場合は、筆頭発表者と口頭発表者は会員である必要があります。

必要事項:①氏名 ②所属 ③発表タイトル ④連絡先(メールおよび電話番号) ⑤要旨(1100 字以内、図表なし、『年報』の例会発表要旨に準じる)

発表を希望される方は、次の参加フォームより3月14日までに申し込んでください。

https://forms.gle/YCRGtvgo5wpmxcSv9

◆エクスカーション

 (準備中)

◆問い合わせ先

 〒168-8555 東京都杉並区永福1-1 明治大学 中川秀一

 e-mail:shu1(at)meiji.ac.jp

※お手数ですが(at)を@に置き換えてください。

◆実行委員会

実行委員長:山崎朗(中央大学)

ソフト部門:新井祥穂(東京農工大学),小原丈明(法政大学)、長尾謙吉(専修大学)、中川秀一(明治大学・ソフト部門委員長)、三橋浩志(福井県立大学)、山本大策(明治大学)

ハード部門:卜部勝彦(日本大学)、牛垣雄矢(東京学芸大学)、落合康浩(日本大学)、笠原茂樹(日本大学)、中岡裕章(日本大学)、任 海(日本大学)、宮地忠幸(日本大学・ハード部門委員長)

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2026年度大会_第2報